拉致による結婚から逃げてきた中学2年生のジャン・ティ・マイさん(Giang Thi Mai)は、誰も結婚してくれない女性になることを恐れその1週間後に再婚した。
北部ソンラー省ヴァンホー郡タデ村の桃園に囲まれた家に住むマイさんは、1月31日の朝、いとこの結婚式に行くためおめかしをして友人と一緒にバイクで出かけた。
途中、3台のバイクに乗った7人の青年に呼び止められ、僕たちと一緒に遊ばないかと声をかけられた。
進路を阻まれ転倒したマイさんは、青年たちに腕を掴まれ車に連れ込まれドアを閉められた。
2分もしないうちの出来事だった。
声をかけた青年に「一緒に帰って俺の嫁になれ」と言われ、恐ろしくなり涙がぽろぽろこぼれ落ちた。
彼女はこの青年を見たことはあるが話したことはなかった。
青年の家に一歩でも踏み入れたら彼の妻になってしまうため、車が止まると座席を掴んで降りるのを拒んだ。
一緒に結婚式に向かった友達がその間に助けを呼んでくれることを期待したがそれは叶わなかった。
青年はマイさんを引きずり降ろし部屋に閉じ込めた。
その後、助けに来た父親に青年は「彼女は私の土地にいるのだから、もう私の妻だ」と追い払った。
マイさんが通うロンルオン中学校(Long Luong Secondary School)で10年以上教えているヴー・ティ・ホア先生(Vu Thi Hoa)のところには、毎年2、3人の男女の生徒から結婚式の招待状が届くそうだ。
彼らの多くは結婚後すぐに退学してしまう。
ホア先生はこのような状況を良しとせず「子供の結婚」には決して参加せず、「同時に生徒たちにも腹を立てている」という。
マイさんが結婚目的で誘拐されたと学級委員長から聞いたホア先生は彼女の両親に電話をかけて様子を聞いた。
父親は電話口でこう言った。「先生、今私にできることは彼女が自力で逃げ出すことを祈ることだけです」。モン族の伝統では女性が自分で逃げなければならない。
ホア先生は父親に「彼女はまだ若すぎる。その風習に負けてはいけません。このことで娘の人生と未来を台無しにしないでください」と説得したが、父親はこの風習に抗うことはしなかった。
2019年に行われたベトナムの53の少数民族の社会経済状況に関する調査結果によると、モン族は児童婚率が51.5%と最も高く、モン族の2人に1人が未成年で結婚している。
ベトナムでは、女性は18歳、男性は20歳から結婚可能な年齢とされている。
世界銀行によると児童婚は2030年までにベトナムのような発展途上国の医療費、所得の損失、労働市場の生産性の低下に何兆ドンの損失をもたらすと言われている。
誘拐事件の夜、青年の家には美しい妻を見事に射止めたことを祝って多くの人が集まってきた。
マイさんは台所で「姑」に言われたことをやっていた。家事をしながら誰も私に注意を払わなければ逃げられると思い家の中を見渡した。
台所仕事を終えて部屋に戻りひとり泣いていた。
青年は夜中、部屋に戻りアルコール臭のする息を切らしてベッドに倒れこんだ。
幸いなことに翌日の午後に脱出のチャンスが訪れた。青年の母親がいなくなった豚を家族総出で探すように言ったのだ。
その時、家には青年の12歳の弟だけしかおらず、門を開けて15分近く走って自分の家にたどり着いた。
青年はマイさんを連れ戻しに家に来たが、彼女の親族が駆けつけて止めに入り、青年の家族を呼び寄せて両家が話し合うことになった。
マイさんの叔父は青年をたしなめ「お前を愛していない彼女を誘拐した。うちの家族がお前を通報しないのを幸運だと思え」といい説得した。
青年は説得に応じたが、マイさんはモン族の伝統に従って既婚女性とみなされるため不満が残った。
青年の家から脱出したマイさんが数日たっても学校に戻ってこないことに心配したホア先生は電話で問い合わせた。
すると「娘が夫の家から逃げるのは縁起が悪い」という理由から、村の長老たちが両親にテントを張らせ、食事も別にさせ、3日間の供養をさせていた。
ホア先生は「供養が終わったら学校に来てください。私もクラスメートもあなたの帰りを待っていますよ」伝えた。
2日後、教室にはマイさんの姿があった。
彼女が嫌な思いをしないようにとホア先生は他の生徒にその話をしないようにと注意していた。
そして休み時間に彼女を呼び出して二人きりで話をした。
ホア先生は「これからは今までの風習を改められるようにすることがわたしの仕事よ」と言ってマイさんを安心させた。
しかし、その1週間後、マイさんは5キロ離れた集落に住む同い年の恋人と結婚した。
SNSで知り合い半年前から愛し合っていたという。
マイさんが別の男性に捕らえられていることを知っていたこの少年は、彼女が逃げ出したらすぐに結婚しようと決意していた。
「私はまだ人妻と思われていて誰も結婚したがりません。それにあと何年か待てば彼は他の人と恋に落ちるかもしれません」とマイさんは話す。
彼女の同級生の15歳の少年も昨年11月からSNSを通じて知り合った14歳の相手と結婚をした。
彼らは好きな人と結婚ができ後悔はしていないという。
少数民族の児童婚率は毎年1%以上減少しているが、政府はその目標を2〜3%に引き上げた。
しかし結婚を強いられる少年少女は多くおり、目標を達成することは困難である。
ロンルオン中学校は5月30日に今年の終業式を行った。マイさんも同級生の15歳の少年もこの日が学校最後の日となった。
嬉しいことにマイさんの義理の両親は、望むのであればハノイで勉強をさせてくれると約束しているが孫のプレッシャーが大きくのしかかっている。
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