伝統工芸トーヘの保護と発展

職人のダン・ヴァン・ハウさん（Dang Van Hau）は、米粉の生地でつくられた人形の玩具「トーヘ（Tò he）」の伝統工芸に情熱を注いできた。

ハノイ出身の彼は2014年に最年少で「職人」の称号を授与された。

「伝統的な玩具と同様にトーヘも現代の玩具と市場競争にさらされていますが、多くの子どもたちがトーヘを愛してくれていることに気づき、うれしく思っています。人形は、その色合いや楽しさ、かわいらしさだけでなく、それぞれに民話に由来する物語があることも大きな魅力です。この小さな人形は、17世紀にはすでに作られ、現在でも人気があります」と話す。

トーヘが身近にあった子供時代

ハウさんの家は代々トーヘを作っているため、幼い頃からこの玩具に親しんできた。
幼い頃から祖父の後をついて回り、玩具作りを見ていた。
10歳になる頃には自分でも作れるようなり、創意工夫し数々のデザインを生み出しコンクールで何度も賞を受賞している。
「母方の祖父はトーヘを作るのがとても上手でした。子供の頃、学校から帰るたびに祖父の家に駆けつけ、米粉をこねて色のついた生地を作り、動物のミニチュアを作ってくれと頼んだものです。祖父のその技に魅了されました」とハウさんは話す。

20年以上の経験を持つハウさんは祖父の後を継いで、ホアンキエム湖の遊歩道や市内のイベントでトーヘの実演をしている。
また、多くの展覧会に参加し、最近ではRMIT大学と共同で "Tò he Revolution "と題した展覧会を開催した。今年もホーチミン市内で展覧会を開く予定だ。

生地の改良

トーヘには米粉の生地に天然素材を混ぜて着色したもので、黄色、赤色、黒色、青色の4原色を使用する。
以前は、薬草と少量の米粉を煮たものを使い、玩具として楽しんだ後は蒸して食べることができた。

しかしハウさんはこの生地では耐久性がないため、より丈夫なものを作れるように、安全性を確保しながら改良し鮮やかな色を出すため人工着色料を使った。
「2012年からは、生地の耐久性を高めるための改良に着手しました。この玩具を多くの人に身近に感じてもらうためには、ハノイに来た観光客が買って、家族や友人のために持ち帰ってもらえるような、長持ちする良い製品が必要だったんです。さらに玩具のデザインの幅が広がり、多くのお客さんに喜んでもらっています」

新たな試み

トーヘは2種類あり、それぞれ受け継がれている。

「ドンスアン（Đồng Xuân）」は、文化的な深みがあり、ドン・ホーの民俗画の影響を受けたキャラクターや様式を表現することに重点を置いています。見た目はシンプルですが造形するのは容易ではない。
職人は、荒々しさと優美さを兼ね備え、伝統的な外観を持つように製品を形成する。
馬、水牛、ヤギ、豚、魚、エビ、ゾウ、トラ、果物などの形をしたものがある。また、水牛を飼う少年や獅子舞を踊る子供など、情景が描かれたものもある。

もう1つは「フォーカック（Phố Khách）」と呼ばれるもので、首都の旧市街にあるハンブオン（Hang Buom）やマーマイ（Ma May）通りでホア族の職人によって作られたものである。
こちらは、より洗練され、細部にまでこだわったリアルな造形となっている。

現代において流行りのキャラクターの玩具がもてはやされる中、ハウさんはこの二つのスタイルを融合させ、民族的特徴と人目を引く美しさを兼ね備えた新しい製品を作ろうと決心している。
そうすることにより、長く愛されるものになり、さらには海外に住む人たちへの贈り物としても喜ばれると考えている。

伝統工芸を守る

村の伝統工芸を守りたいという思いから、ハウさんは何年も前から田舎の6年生から12年生までの子どもたちに無料で教える教室を開いている。
しかし、経済が発展するにつれ、副収入にもなるトーヘ作りに子供たちは興味を示さなくなってきている。

そんな中でもデザインだけでなく、素材も含めて、この工芸品をさらに保存・発展させることを日々模索している。
ハウさんは、トーヘ作りは難しいことではなく、大切なのは愛と忍耐でキャラクターに魂を吹き込む仕事だと考えている。