横井紅炎先生インタビュー:「いけばなは、空間を魅せる芸術」

Bài: Mayu Senda/ Ảnh: Masako Iwasaki, NVCC/ Biên dịch: Lê L. NgọcApr 18, 2018

1月某日、寒い寒い冬の東京。いけばな教室が始まる前の時間をいただいて、華道家の横井紅炎先生にインタビューさせていただいた。「ベトナムと日本の架け橋になるのなら」と、快く引き受けてくださった紅炎先生。いけばなとは、日本文化とは…さまざまなお話をうかがった。

横井紅炎先生

横井紅炎先生 (Photo: Masako Iwasaki)

紅炎先生の手から、作品が創り出されていく。さっきまで横たわっていた花や枝が、意志を持ったかのように凛とした表情を湛える。先生の手のなめらかな動きに、ただ驚いた。「ほかの伝統芸能もそうですが、頭で考えるものではないんです。手が覚えていて、自然と動くものなんですよ」。いけばなは日本人にとっても、たくさんのルールがあって難しそうな印象がある。そんなルールを身体に染み込ませるのが、「継承する」ということなのだろう。

横井紅炎先生

(Photo: Masako Iwasaki)

紅炎先生が生まれたのは、能楽師(日本伝統の舞台芸術の演者)の祖父、舞踏演出家の父、華道家の祖母と母という芸術一家だ。お祖母様は、草月流の創始者・勅使河原蒼風氏の8人の弟子のうちの一人であったという。自然といけばなや空間美術の世界へと進んだ紅炎先生。16年前、母の他界を機にいけばなの稽古場を引き継ぎ、本格的に華道家として活動を始める。いけばなの魅力とは、なんなのだろうか。

横井紅炎先生

(Photo: Masako Iwasaki)

「日本はせまい島国です。いけばなは、そんな国だからこそ生まれた芸術だと思います。それは、茶道の茶室や、能も同じ。せまい空間に宇宙を凝縮するのです。いけばなは、空間を魅せる芸術です。枝を一本生けるだけでそこに空気が流れ、風が吹いているような、そんな空間を創ることができるのです」。いけばなの作品を前にしたとき、わたしたちは単に花や樹を見ているのではなく、小さな宇宙と対峙している。その世界観こそが、小さな島国で生まれた芸術の大きな魅力である。

横井紅炎先生

(Photo: Masako Iwasaki)

「生の花を生けるということは、植物の生気をいただくということ。一度切ってしまったら植物はもう死ぬしかないですが、きれいに生けてあげればもう一度生きることができる。花や樹の命を全うさせたい、そう思っています。同じ種類の花や枝でも同じ形のものはありません。組み合わせだって何通りもある。いけばなには“完璧”や“正解”というものはないのです」。

横井紅炎先生

パラオでの作品 (Photo: 横井紅炎先生提供)

横井紅炎先生

A work for "Ooku" movie (Photo: 本人提供)

じつは紅炎先生、ベトナムとゆかりがある。2016年にダナンで行われた日越友好フェスティバルで、ステージパフォーマンスを行ったのだ。桜の造花を使い、踊るように生ける動きのあるステージに観客は魅了されたが、このとき桜の造花以外の材料はすべてベトナムで調達したのだという。「前日に現地ボランティアの学生たちと流木を拾いに行き、枝に造花の花をひとつひとつくっつけてまるで本物のような桜の枝を作りました。学生さんたちは、わたしがゴミみたいな木ばかり集めているので不思議だったみたいです。でもそんな木から作品ができて驚いて、「ものを創る」ことのおもしろさを感じてもらえたみたいでした」。他にも、パラオやインドでのライブステージやワークショップなど、活動は日本国内にとどまらない。

横井紅炎先生

2016年ダナンでステージパフォーマンス (Photo: 横井紅炎先生提供)

「ライブをするときは、音楽のビートに合わせて作品を創っていきます。観ている方々に楽しんでいただきながら、オブジェができるさまをどんどん世界に広げていきたいと思っています」。また、2016年に発行された「東京都市白書」の中で、紅炎先生はこうも述べている。「江戸から東京に変わった現代でも、床の間や茶室、枯山水と、空間を生かして鉢植えや生け花をすえる風習は続いています。そんな国民性に誇りを持ってほしい。東京はたくさんの人々が訪れるので、私たちは花々や植物で「おもてなし」の心を持ってお迎えできたらいいですね。幕末から受け継がれてきた風習を、100年後にも伝えたい、そう願っています」。

横井紅炎先生

2016年ダナンでステージパフォーマンス (Photo: 横井紅炎先生提供)

「いつもはアオザイで作業することが多いんですよ」。その日落ち着いた色の着物に身を包んだ紅炎先生が、思いがけないことを言った。「大きな作品を創ることが多いので、よく動くんです。アオザイがちょうどよくて」。こんなところにもベトナムとのつながりが。昨年はダナンだったが、機会があればホーチミンやハノイでも是非ステージをやりたいという。近い将来にベトナムで、アオザイを着た紅炎先生のライブパフォーマンスを見れる日が楽しみだ。

横井紅炎先生

ダナンの子どもと記念写真を撮影 (Photo: 横井紅炎先生提供)

SENDA MAYU/ kilala.vn

横井紅炎

草月流の華道家。舞台、映画、デモンストレーションなど、幅広い分野で活躍中。東京、神奈川で教室も開催する。ベトナム、パラオ、インドといった海外でのライブパフォーマンスも積極的に行い、現地の素材を使って創るスケールの大きな作品で人々を圧倒する。

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