ベトナムに進出している日本の製造業は、デジタル化、付加価値生産、省エネルギーなど、現地の潜在的な成長力を引き出すことに注目しているとジェトロ・ハノイ事務所所長で日本商工会議所副会頭の中島丈雄氏は語っている。
日本企業における人材の確保
日本貿易振興機構(ジェトロ)の昨年の調査によると、日本企業がベトナムへの投資リスクとして最も重視しているのは、人件費の上昇(60%)だという。業種を問わず、賃金が上昇し、企業は労働者の確保に苦慮している。
加えて、高い離職率も増えている。この問題を指摘した企業は、2016年に33%、2019年に39%、2021年に43%と増加している。
さらに、パンデミックが状況を悪化させた。労働力不足や専門家・技術者の採用難は、2020年の8.6%から2021年には26%に上昇した。企業は、社員が辞め、戻ってこないという厳しい環境に直面した。
給与面についてはITエンジニアの場合、アジアでは給与に大きな差はない。
タイ人とベトナム人の給与差は2倍近くあるが、IT人材同士では1.3倍程度に過ぎない。
非製造業ではタイ人とベトナム人のIT管理職の間に大きな給与差はない。
このことからベトナムのIT人材はベトナムの他の産業に比べて比較的高い給与を受け取っていることがわかる。
日本の加工・製造業のベトナムでの成果
昨年は、すべての製造業にとって厳しい1年だった。一部の業界では需要が縮小し在庫が増加した。
また、部品や材料の輸入に制約があり、フル稼働できなかった企業や、流通の乱れから輸出が少なく、低調だった企業もあった。
昨年10月、ベトナム政府が規制を緩和し海外市場は回復基調に入った。しかし、故郷へ帰った多くの労働者が戻ってこないうえに感染率がまだ高く、採用が進まなかったため、受注を逃す企業も多かった。
製造業は2021年第3四半期のGDPで4.1%減と大幅な減少を示し第4四半期は8%増に戻したが、国内市場の回復の弱さや国際物流の混雑が引き続き懸念される。
加えて、ウクライナ危機が世界経済に暗い影を落としている。
今後、この国の成果として最も注目すべき点
2021年JETRO調査によると、注目すべきは主に3つの分野である。
1つ目はデジタル化。
積極的なデジタルユーザーである企業のうち、60%が電子商取引を実施し、37%が検討している。また、40%強がロボットを使用しており、20%が導入を検討していると答えている。
ベトナムでは人件費が高騰し、人を雇うことが難しいため、3Dプリンターやモノのインターネット(IoT)、AI、デジタルマーケティングなど、人手不足や省力化、自動化の技術に関心を持つ企業がかなり多いとみられる。
2つ目は付加価値生産。
中国や日本からベトナムへの生産移転が進み、日本企業はより挑戦的な生産にシフトし、価値ある素材をベトナムで使いたいと考えている。4年前と比較して「高付加価値製品の生産拡大」が2ポイント増加、「汎用品の生産拡大」が3ポイント減少している。
3つ目の分野は、省エネルギーなどの環境配慮。
リサイクル、排水処理、廃棄物削減、除塵、CO2削減など、環境に配慮した生産活動の導入が望まれる。
2050年までにカーボンニュートラルを目指すと短期的には運用コストが上がるが、日本企業にはこの分野での経験が豊富にある。
政府の政策、特に有利な投資環境とサプライチェーン成長の期待
短期的な不安材料としては、ウクライナ情勢をめぐる世界経済の行方、エネルギー価格の上昇、サプライチェーンの混乱が残っていることなどが挙げられる。
ベトナムは開放的な貿易国であり、海外市場の影響を大きく受ける。3月15日以降、ベトナム政府は外国人観光客の入国制限をほぼ撤廃し、外国人投資の回復と観光・ビジネス客の増加が期待される。
また、国内市場の回復も欠かせない。ベトナムに進出している日本企業の半数は、この国内市場をターゲットにしている。
ベトナムの今後の行方と課題
ベトナムは、加工・組立の分野で世界有数のメーカーに成長したが人件費は年々上昇している。
また、製造業は高付加価値産業に挑戦することになり、低付加価値生産からの脱却が不可欠となる。
これがなければ、多国籍企業はいずれ労働コストの安い国へ生産拠点を移してしまうと推測される。
技術の変化は早く、国もその変革に対応する必要がある。米国、日本、ドイツ、フランスで製造業は100年以上にわたって重要な経済エンジンであった。
そのような技術者を常に輩出する教育・訓練システムが必要であり、再教育システムも不可欠である。
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